top of page
検索
  • 執筆者の写真店主

開演直前

開演直前の緊張感が店主はとても好きだ。

ざわめく客席(ざわめく程居ない時もあるが。)、パッァ.とスポットライトが燈る。

スゥーっと止む人の声、のそのそとステージにあがる高揚感。

何かが起こるような、そんな気持ち。

やはり、とても好きだ。



お店でレコードを流しているとそういった瞬間が幾度も訪れる。


ある程度ざわついた客席。レコードが終わる。

No Room For Squaresはターンテーブルが一つしかないので、次のレコードを準備していても30秒ほどは無音の状態になる。

新たなレコードの針を落とす。すぐに音楽は始まらない。

店内の状況をよく観察しながら、右手でボリュームの正解を探る。

店内の緊張感が少しだけ高まる。

やっと、一音目が鳴る。それはドラムのバスなのか、ピアノの和音なのか、はたまた管楽器のソロなのか…。



一瞬数人の視線がこちらに向けられる。

ゆっくりとジャケットを表に出す。

各々の目にはそのジャケットがありありと映る。


自身の思い描いたレコードとの答え合わせをする目。

未知の何かを見つけた時の高揚感が満ち溢れた目。


各々の目の色がこちらに反射する。




その時の高揚感は、ライブ前のあの高揚感によく似ている。気がする。




ある人にとっては、今日最後に聴くレコードかもしれない。

ある人にとっては、疲れた一日を癒す最初のレコードかもしれない。

そんな、各々の想いには関係なく、皆一様に二十数分同じレコードを聴き続ける。




文字にしてみると、レコードを変える仕事は、中々大変なものなのかもしれない。

そんな大それたものでは無いと思っていたのだが…。

まぁ、自身の仕事を卑下するよりは誇りに思った方が、幾分かマシだろうから、良しとしよう。




そんな事をボーっと考えているうちにレコードがもう終わる。

次のレコードの予定は未定だ。




店主

閲覧数:53回0件のコメント

最新記事

すべて表示

10

25歳の時に、どうやっても人生が上手くいかず、もうやめようとしていた。 それも上手くいかず、どうしたものかと途方に暮れていた。 何も解決されないまま日々が過ぎ、一つ決め事を作った。 10年だけ、頑張ろう。 10年は遠い未来だ。そこまで頑張れば満足してゴールすることが出来るだろう。と思う事にした。 どれだけ大変な事があろうと、10年は這いつくばって人生に縋ろう。 25の時の絶望がちっぽけに思える程、

久方ぶりに遠出をする。 半径1キロ以内で生活している私にとっては乗り換え一つするだけでも遠出な気持ちだ。 店を開けてから数年、随分幼い感覚になったものである。 遠出をするという事実に気持ちが昂り過ぎて持ってくるはずの小説を忘れてしまった。 少しどんよりとした雲を涼しい場所から眺めては、あの話の展開について思いを馳せる。 そんなことをしていると、両の眼から入ってくる情報は脳に届かずに体内で悲しく彷徨

善い人の生

良く"死ぬ時は良い人生だったなぁ"と思って逝きたいという話を聞く。 良い人生とは何か。店主はよくわからない。 多分、ずっとわからないのだと思う。そんな気がするのだ。 だから、店主は死ぬ時まで頑張った人生だったと思いながら逝きたい。 どれだけ辛い事があろうと、どれだけ人に笑われやうと、頑張り続けて終わりたい。 店主

bottom of page