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慣れと練習の果て

最終更新: 2019年11月5日

No Room For Squaresは夕方まで珈琲を出している。

豆は同じ下北沢にある珈琲屋 うずさんから仕入れている。

店主はどうしようもない人間であるので、勿論、珈琲を淹れる手ほどきなど受けていない。

昔の記憶を呼び起こしながら、ドリップの練習に勤しんではいる。


そんなある日、うずの店主が夕方に来店された。

そして、No Room For Squaresの素晴らしい珈琲を飲んだ後、ほんの少し興奮し、珈琲を淹れるシステムの手ほどきをしていただいた。



詳しくは言えないのだが、成程、と言わざるを得ない高説だった。

その後、他の客がいなかったので、カウンターに入り1杯ドリップをしていただいた。

No Room For Squaresのカフェタイムにお客が居ないことは、稀に良くある状況なのだ。



普段はネルドリップで淹れている、うずの店主。

ペーパードリップは7-8年ぶりだと、少し笑いながらドリップをしていく。

素晴らしい時間だった。

ケトルから落ちる湯は光に乱反射し、宝石のように輝く。

水滴を一定に落としながら、珈琲が少しずつ、しかし確実に変化していく。

4分ほどかけて、店主のとは見ただけで明らかに違う珈琲を淹れてしまった。



その後、ケトルの説明をしながら、うずの店主は一言こう言った。




「まぁ、慣れですよ」




店主はひどく驚いた。

違う。あの精確な水滴の落とし方や珈琲の状態を把握する感覚は数多くの"練習"を経ないと出来ないものだ。

うずの店主は、その"練習"や”試行錯誤”をすべて「慣れ」の一言で片付けてしまった。

練習とか大変とか、そういった感情は今までいだく事無く、今日まで到達したかのように。

店主も演奏をする嗜みが少しだけあるので、理解が出来る。

こういった苦労を苦労と思わず集中できる人こそ、本当に良いものを作り上げられるのだと。




素晴らしいうずの豆を一滴ずつ善く淹れられるように、今日もNo Room For Squaresにおいしい珈琲の香りを充満させる。



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