不安というものは泥のようなものである。 店主が生まれ育った場所は名前は一応東京都であったが、歩いて数秒で鬱蒼とした森が広がるような場所だった。
小学校に馴染めない時は学校に行ったふりをして森で独り時間を過ぎる事を待っていた。
そういう意味でも店主の情操を育んだのはあの森だったのかもしれない。
ある日、雷雨が過ぎ去った天気の良い日。 雷が木に落ちて倒れていた。かなりの大木だったと思う。
なんとなしにそこに座りたくなり、道なき道を進んでいった。
大木であったものに到着する直前に足に重いものがまとわりついた。
今思えば泥濘程度のものであっただろう。
しかし、齢が十にみたない少年は、底なし沼に足を踏み入れたように感じた。
恐怖を覚え必死に足を前に出すと、ズボっと足が抜けた。
靴は泥濘の中だ。
それを拾う事すらできないほどの恐怖を覚えていたのだろう、そのまま走って大木であったものへと走った。
大木、であったものは縦に裂けていた。父よりも生きているであろうモノが一日にして死んだことに、幼心ながら大きな衝撃を覚えた、と思う。
木陰に座り足元を見ると泥だらけだ。
靴もない。
このままでは、親には何が起きたか聞かれるだろうし、学校にも問合せされるかもしれない。
これからどうしようか...。
店主が覚えている最初の不安の記憶だ。
今PCでこれを認めている足元にも泥の泥濘が見える。
もう𠮟ってくれる人はいない。
だから、自分で必死に足を上げて泥濘を超えなければならない。
その先にあるものが確かなものだと信じるしかない。
댓글