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執筆者の写真店主

目を覚ます



疲れていたからか携帯電話は充電しておらず、電池が切れていた。

見回しても時計は無い事は知っている(家主はそういう人間だもの)。

ゴソゴソ、と携帯電話をアウトレットに繋げる。彼が起きるまでもう少し時間が必要だ。


まだ、暗い。


少し寒さを覚える。

衣替えという概念も無く一年を過ごしているので、我慢するしか無い。



外が騒々しい。

雨が降っているのかも知れない。

風が強いのかも知れない。


誰かに戸を叩かれているようだ。


おーい。おーい。


そんな声も聞こえる。



眠け眼で窓をゆっくりと開けると、そこには大きな木がポツンとたっていた。


お前が呼んだのか?

答えはない。


何かあったのか?

答えはない。


私は眠いのだ。

答えははない。


では、閉めるぞ。また何かあったら呼んでくれ。

答えはない。


扉をピシャリと閉めて、天井を見上げる。

彼の声はもう聞こえない。

私なんかで満足したのだろうか。


まだあと少し眠れるはずだ。


ゆっくりと呼吸を吐いて、一言言いたくなる。


"お休みなさい"


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