No Room For Squaresの冷やし珈琲は水出しでつくっている。
店内カウンター端にある水出し器が週に2-3回稼働し、4-5杯の水出しをゆっくりと。
水出し器と言っても大層な装置ではなく、上にある水瓶から点滴のように水を落とし、コーヒー豆を通して抽出するだけのものだ。
他にも遣りようがあったのだろうが、店主の好みでこうしている。
お昼、営業始めに抽出を開始してバータイムには終わるような形だが、その様子を見ていると非常に興味深い。
音楽に合わせて水瓶の水面が時にはゆっくりと、また時には激しく共鳴する。
まるで音楽に合わせて踊っているかのように。
お客がいない場合はこの水面の動きを見て選曲をしているのだが、意外と天邪鬼なようで私の思い通りには踊ってもらえない。
彼女と心を通わすのは4-5時間の内20分程が良いところである。
その少しの時間、水面が楽しそうに踊っていると店主も少し踊りたくなってしまう。
No Room For Squaresの床は板場だ。
試しに足を擦らせてみる。
ズザッ
良い音が鳴っている。
もう少し長くやろう。
ザーズッ
これまた小気味よい。
転びそうになるところを、もう片方の足を滑らせて何とか続けていく。
連続でやっていると不定形なリズムになっていく。
ズザザーツザッ ザッザッゥザ
ザドッ ドッッズザー
手も入れてみよう。
手を広げると回転に勢いが入り、良い音になる気がする。楽しい。
私は踊りの手解きを受けた事がない。
完全に内から出るモノのみで水面と踊る。
静けさの中に、音と水面と私でアウトサイダーアートを描くように。
勢いが増していく。この曲もそろそろ終わる。ドラムのソロを終え、ピアニストがテーマを弾き始めた。
さて、どうやって終わろうか。
勿論そのメソッドも何も私は知らない。
その時。
カチャリ と音が鳴った。
ゆっくり扉が開いていくのがわかる。
勢いがついた、その『アウトサイダーな何か』は急に止める事が出来ない。
扉が完全に開いた。
お客様と目が合う。
その目から困惑が見て取れる。
私は満面の笑みでこう言った。
【いらっしゃいませ】
店主
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